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radio station

それでも続く僕らの日々に

昼と夜の間に

昼のような夜、眠ることもできず、
夜のような昼、動きをしばられて、
前にも、後ろにも進めない毎日に。
進めない事で、迷惑をかけている。

4日、谷川直子さんのインタビューが朝日新聞に。

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去年、毎日新聞に載った記事もよかった。

 遅れて来た新人だ。社会のゆがみをユーモラスにえぐる小説が注目を集め、今秋には4作目となる『世界一ありふれた答え』(河出書房新社)が刊行された。現代病の代表格と言えるうつ病を真っ正面から描く。憎しみと混乱を経た主人公が、息を詰めるように踏み込む地平は、読者の感動を呼ぶことだろう。

 まゆこは25歳で結婚した。塾講師だった夫に市議会議員への出馬を勧め、3回当選。市長の座を目指して奮闘していたが、夫は若い女性に走った。離婚を余儀なくされて今40歳。泣き、食欲はなく眠れない。うつ病である。クリニックで頼子先生のカウンセリングを受けている。

 「私の実体験が大きいんです」。谷川さんは25歳で作家の高橋源一郎さんと結婚して40歳で離婚。雑誌の編集者を経て競馬のエッセーを書くなど活躍していたがうつ病になり、1年にわたって認知行動療法を受けた。「自分は外の世界を変えられない。じゃあ自分の立ち位置をずらしてみましょうとカウンセリングで言われました。私は文学少女だったのに、自分以外の人の苦しみに気づかなかった。他人に共感していなかったと知る経験はすごくショックでした」

 カフェでまゆこに声をかけるのは30歳の著名なピアニストのトキオ。ピアノを弾くときだけ指が動かない病にかかり、やはりうつに苦しんでいる。ドビュッシーの「アラベスク」のけいこをつけることでまゆこを支配しようとする。まゆこは鍵盤を指で打つ。音が鳴る。観念ではなく身体が物語を推進する。

 主な舞台は両者の自宅と頼子先生のクリニックだけ。「うつ病をなまけ病だとわらう視線が世にある中、(面白おかしいストーリーに走らずに)カウンセリングのダイナミックさを描きたかった。ユーモアも封印しました」。きちんと料理されていない“生”の文体は文学では否定的に捉えられがちだが、あえて言葉に遊びを許さなかった。

 まゆこは薄紙をはぐように自分へのこだわりを捨てる。ある母娘の受難に手を差し伸べることで<頭が自分以外のことで回り始める>。再生へのスイッチが入る。まゆこを縛っていたのは何だったのか? 「個性が大事だと声高に叫ぶ世の中に疑問を投げかけたかったのです」

 谷川さんは45歳で大学の同級生と再婚し、現在は長崎県五島市に住む。読む人を幸せにする小説を書こうと試行錯誤し、52歳で新人の登竜門「文芸賞」に輝いた。「都市部では消費文化の幻想から逃れられませんが、五島では消費の先に何を生むべきかを考える。それが私の小説です」。初めて五島が舞台の次作を既に執筆中。気鋭の筆は走り続ける。【鶴谷真】


世界一ありふれた答え

世界一ありふれた答え


ダメな事は何もない。
やり直すことが遅いなんてこともない。


ただ、ただ、暗闇から手を伸ばす、
その力さえあれば。